Cafe de ぴゅあ

掲載誌
設計主旨
◆ 建 築 の 目 的
「Cafe de ぴゅあ」は、障害者が働く喫茶店です。高齢者向け住宅や障害者の作業所などが入った福祉複合施設の1階にあります。店を運営するのは、「障害者ワーククラブ」です。同組織は、三鷹市内の16の作業所が集まり、障害者の働くことを通じての社会参加をめざし発足しました。市内の児童公園の清掃や、民間企業からの仕事の共同受注などの活動を続けています。 この店は、経営においては、補助金等の福祉的援助は受けていません。家賃・光熱費も含め、独立採算での運営という厳しい条件が前提です。ワーククラブの人たちは、外部からの仕事の受注だけでなく、自ら経営することで、障害者の仕事の場を作りだし、社会参加の道を広げて行こうと考え、店を開くことを決めました。また、三鷹市との提携により、店内で、市の友好市町村の特産品の展示・販売も行うこととなりました。

◆ 経 緯
私がこの計画の相談を受けた時期には、福祉複合施設の躯体工事が既に終了し、サッシの製作・取り付けが始まり、内装工事の段階に入ろうとしていました。店の内装案は、建物全体の設計の一部として図面が提示され、厨房まわりの設備工事は、その案を前提に進んでいました。しかし、ワーククラブの人たちは、その案がめざす店舗にふさわしいものなのか、悩んでいました。工期は迫り、施工者からは、決定を即される状況の中での相談でした。この意義のある店は、ぜひ成功しなければならない。そう考え、一刻を争い、既に進みつつある多くの状況を前提とするこの計画に参画することとしました。

◆ 空 間 構 成
この計画において、まず考えたのは、物産品の展示コーナーを、どのようにするかです。ワーククラブの人たちは、物産展示が落ち着かない雰囲気を生み、魅力ある喫茶空間にならないのではないかと心配していました。私は、このコーナーを、他の店にない個性とし可能性としていきたいと考えました。地域の物産品は、働く人の知恵の凝縮であり、地域の象徴であり、文化の蓄積ではないだろうか。そう考え、物産品を、芸術品と同じように捉え、それを展示する、ミニギャラリーをもつ喫茶店にしようと提案しました。展示品との出会いの生み出す、距離を越えた広がりや連携のイメージは、人間のネットワークを築いてきたワーククラブのイメージと重なり合うと考えました。この展示コーナーを、入るとまず目に飛び込むように、入口正面に配しました。訪れる人を迎えるとともに、右に細長く続く喫茶空間へと意識が向かうように、斜めに向けて、床から天井まで展示スペースを展開しました。一つ一つの棚は、それぞれ独立した世界を感じさせるように正方形とし、色彩豊かな物産品が映えるように、黒一色にしました。すべての棚に物が入ると雑然とするので、何カ所かは黒いパネルをはめ込み、掲示スペースとして活用するとともに、裏を収納に使えるようにしました。スポットライトによる照明が、正方形の棚に強い陰影をつくることで、ガラス窓越しに、道からも、店の雰囲気が浮かび上がるようにしました。
 展示コーナーの廻りは、こまごまとした雰囲気とならないように大きなセンターテーブルを配しました。展示コーナーの斜めの配置と呼応して、センターテーブルを、大きな平行四辺形にすることで、右奥へと向かう、流れるような広がりを生み出すとともに、車椅子がスムースに動けるようにしました。また、他の壁面は、黒との対比を考え、ほんのりと赤みがかった肌色としました。

◆ 特 徴 的 な こ と
この内装計画の実現においては、多くの方々の支援がありました。施工者の人たちは、様々な変更に対して、よく対応していただきました。三鷹市役所からの協力もありました。店の運営面やメニュー内容等の相談にのってくれる人たちがいました。この店は、ワーククラブの人たちによる、障害者の自立に向けての挑戦です。新たな可能性を開こうとするその姿勢に対する、多くの人たちの共鳴と応援が力となり計画は実現に導かれたように思います。
 開店4年がたち、店は、ランチタイムには空席待ちの客が並ぶほどの賑わいを見せています。展示コーナーは、障害者の作品ギャラリーとして、季節に合わせた展示表現の場として活用され、物産品と共に、各作業所で創られた障害者の様々な作品と出会い、購入することのできる場となっています。


多くの人々の共感の中で生まれたこの店が、いつまでも生かされ続け、可能性を育み続けることを願っています。
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