愛媛・勝愛幼稚園

建築概要
掲載誌
設計主旨
幼稚園は、人生の出発の空間です。その出発は数人の友だちとの出会いから始まり、日々の生活の中で、クラス、学年、そして全園単位と、子どもたちの世界は広がっていきます。その各段階に呼応した集いや遊びの場が確実に用意されてこそ、子どもは健やかに成長することができると考えています。


 勝愛幼稚園は、園児500人、保育室17室、水路をはさんで2つの園庭を持つ大きな幼稚園です。規模が大きいことは、より大きな世界にふれられる一方、自分の居場所を見つけられない不安も感じやすいものです。そのためこの計画では、身近な小スペースから大きな空間まで、段階的に空間を組み立てていくことで、子どもが不安なく、確実に世界をひろげ、成長していけることをめざしました。


その最も小さな場として、保育室の一角に小さな空間をつくりました。3m角の天井の低い空間で、出窓のように保育室から庭に突き出す配置にしました。保育室から一歩引っ込んでいるので、保育の時も1人遊びができ、積み木やままごとを連日継承して遊ぶような自由保育も展開できます。家でいえば、自分の「部屋」のような場といえるでしょう。


この「部屋」の次にくるのが保育室です。1日の大半を過ごす場として、各室毎にトイレ・水廻りを備え、そこだけで生活を完結できる独立した「家」としました。


「家」が何軒か並ぶとお隣同士の界隈性が生まれるように、保育室2~3室でテラスを共有し、一つのグループと感じられるように配置しました。保育室で飽き足らない子どもの次なる遊びと挑戦の場です。


この界隈性をもつ保育室群2つを組み合わせて一つの建築にし、東・西それぞれの園地に建てました。園庭を抱くような円弧状の庇によって一体感を生み出すとともに、中心にシンボルゾーンとして「広場」にあたるゆとりの外部空間を配しました。


さらに水路をまたいでブリッジでこの東西の建築を結び、ブリッジをそのまま各棟の「広場」まで引き延ばし、幼稚園全体を貫く「大通り」を形づくっていきました。


こうして「部屋」「家」から「界隈」「広場」「大通り」まで段階的に空間が積み重ねられた「町」のような構成をもつ幼稚園空間の中で、子どもたちの成長が確かに育まれることを願っています。
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