東聖花の森保育園
子どもたちを包み込む丘

建築概要
掲載誌
設計主旨
 北海道東神楽町。遠く大雪山系の山並みが見える大きな河川に沿った地に「東聖花の森保育園」は計画されました。
 南には公園が広がり、北には土手がどこまでも続く。この広々とした環境を前に心が開かれる思いがしました。一方、大きな開放感の中で、時に人は自分が小さくなったような、よるべない不安を感じるのではないかとも思いました。開放的な場だからこそ、子どもたちにとって保育園は、心のよりどころとなる必要があるのではないだろうか。環境を生かしたのびのびとした建築であり、同時に、自分は守られているという確かな安心が感じられる建築であること。この2つを求めて生まれたのが、円弧を描いて建築を一体に包み込む大屋根の姿でした。
 まず、すべての空間が大地としっかりつながって感じられるように、全体を平屋建てで計画しました。そして地面に接して水平に広がる建物の端から端まで一気に、曲面の大屋根を架け渡しました。屋根の生み出す丘のようなシルエットによって周囲の自然と大らかにつながり、大屋根に包まれた内部は、守られた安心に満たされた空間となります。円弧の屋根は中央が一番高くなります。その部分に遊戯室とランチスペースという大きな空間をおき、天井が低くなる東・西両翼に、保育室、乳児室という小振りな空間を配置しました。中央の大きな空間は南が広いハの字型の平面にすることで、公園へと向かう広がりを生み出し、床から天井までの全面ガラス窓によって、内と外との一体感を高めました。
 東翼に配した保育室は、子どもたちが自分の家と感じられるように、各室を雁行させて独立性が高まるようにしました。雁行配置の特徴を生かしてどの部屋にも2方向に窓をあけ、時間とともにうつろう自然光を室内に導き入れました。さらに、各保育室をそれぞれ独自の丸天井で包むことで、部屋ごとの独立した雰囲気を生み出しました。
 西翼の乳児室は、落ち着いた場となるように、大屋根から独立した低い屋根で包み込みました。調乳室、乳児トイレ、おむつ用品交換スペースなど、乳児室特有の多機能空間を集中して円形の空間に組み込み、特徴ある場を形づくりました。
 構造はあたたかみを感じさせる木造としました。雪の重みに耐えられるように柱から方杖を出して架構しました。空に向かって枝をはる樹が人を守るたたずまいを感じさせるように、この柱によって安定感や力強さをかもし出せればと考えました。柱の枝振りで支えられた曲面天井を杉板張りにすることで、木のぬくもりで子どもたちをすっぽりと包み込みました。この空間の中で、子どもたちの内面が豊かに育まれ、人生の出発の時間が実りあるものとなることを願っています。
       「KJ/建設ジャーナル」 2013年3月号初出

■投影図

■配置図

■平面図

■断面図

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