東邦電気工事ビル

建築概要
掲載誌
設計主旨
 建築やインテリアに関する電気工事会社の本社ビルです。業種が建設に関わることから、建物の成り立ちが感じられるような建築をイメージしました。それと、建主からの要望でもある、地震への備えということから、天井のない事務所建築を実現することにしました。
 天井がないと構造体がそのまま見え、そこに直接、照明その他の設備がつくことになります。すると「支える」ための構造、「照らす」ための照明設備といった建物を成り立たせるために必要な各要素の役割や機能が際立ち、無駄のない力強さや機能美を生み出すことができます。そして天井仕上げで隠さずすべてを見せることで、すっきりとした爽快な空間を実現できるでしょう。一方、地震時の天井落下が大きな問題となることを考えても、天井がないことは地震への備えとなります。
 しかし、ただ天井をなくして構造を見せるだけでは、いいオフィス空間は生まれません。デスクワークの場にとって、部屋全体を均一に照らす照明は大切であり、その実現に天井面は大きな役割を果たしてきました。天井をなくして構造を直接見せるには、天井面に代わって構造自体が、均一な照明効果に寄与する必要があります。そこでスラブを支える構造形式を、小梁を一方向に並列して架け渡すジョイストスラブにしました。小梁と小梁の間に照明を配置すると、照明が小梁に隠れ、間接光が梁を照らすようになります。コンクリートの梁自体が照明の反射板の役割を担うわけです。こうして明るく浮かぶ梁のストライプが部屋全体に広がり、穏やかな光に包まれたオフィス空間を生みだすことができました。
 天井がなくなると、空調機やダクトを天井内に隠蔽する従来の空調システムは使えません。そこで、天井内の代わりに床下を利用することにしました。コンクリートと床仕上がりとの間に十分な空間をとり、空調機からの空気をそのままそこに流し込み、窓際まで持っていってから床上に吹きだしていきます。床下を通る空気の温度が床の表面に伝わり、床面からの輻射効果が生まれるため、穏やかで快適な環境を作り出すことができます。気流にたよらないので、オフィスでよく耳にする「エアコンの気流が不快だ」というクレームもおこりません。熱負荷の大きい窓廻りを集中して制御するので無駄がない。さらに熱負荷を減らすために、エレベーターや階段、トイレ更衣室等の小空間を西と北に集中させ、西日や北風からメインのオフィス空間を守るようなレイアウトにしました。南側のサッシには外部にブラインドを設け、直射光を遮るようにしました。
 残響についても考える必要があります。オフィスの残響調整は天井面の吸音能力にたよるのが一般的ですが、これに代わる効果としてやはり床下が役に立ちました。30センチの床下空間が中低音を吸収するため、コンクリートが多く見える割に不快な残響の少ない空間を実現できました。
 外観は、様々な小さなビルが混在する町の風景を考慮し、一つの大きなかたまりが突出して立ち上がるのではなく、いくつかのボリュームが組み合わさったような形にしました。素材も、石張り、ガラス、アルミスパンドレル、アルミパネル、白一色の壁、杉板型枠コンクリート打ち放しと、いろいろな材料を使うことで、単純な塊とならないように工夫しました。そして、これらの素材の組み合わせ方によって、ものを生み出す会社にふさわしい端正で緻密な印象を与える建築をめざしています。

■アクソメ図

■断面図

■断面概念図

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